車について(2)~エンドレス免停【前編】~

投稿者: itogen
5月 09 2011 年

旅費よりも罰金の方が高くついた北海道旅行が終わり、

免停講習(違反者講習)を受けに行くことになりましたが、

これが何よりもきついものでした。

3日前の朝、起きると家に誰もおらず、テーブルの上に

「家族全員で旅行にいきます」的な置手紙を見つけましたが、

その時よりきつかったです。

 

指定場所は運転免許センターで、スクーターで20分くらいで行ける近距離にありました。

ただ、免停中に運転して捕まったら免取り(免許取り上げ)になります。

悩みましたが、結局大人しくバスで行くことにしました。朝9時から16時半まで。

小学校のような机と、高さがあっていないパイプ椅子で、座りにくくて困りました。

教官も小学校の先生のような人で、

「安全運転の姿勢で!背筋はぴっと伸ばして手は机の上!頬杖はつかないように!

態度も成績に反映しますからね。40点満点中34点以上で29日免停期間を短縮します。

33点~24点だったら短縮期間は19日です!」

とか言うような人でした。

 

始まってすぐに教官が、(恐らく居眠りを始めた)受講者に

「おい!3番!3番!帰れ!カ・エ・レ!こっちが頼んで来てもらってるんじゃないんだ!

(講習代に)高い金払って(でも)講習受けられないでお前が車乗れなくて困るだけだ!」

などと怒鳴り始めたのにはびっくりしました。

そして名指し(?)で注意された3番(紳士っぽいひげを生やした、ステッキとシルクハットが似合いそうなおじさん)

がすっと立ち上がり、両手を腿にぴたっとつけて、

「すいませんすいません」とぺこぺこ謝り始めたのにはもっとびっくりしました。

何か来てはいけない場所に来てしまったということがぼんやりと分かりはじめてきたので、

『自分は隅っこの方で小さくなって、しかし背筋はぴっと伸ばして手を机の上におく安全運転の姿勢で、

目立たないようにしてやり過ごそう』と決意しました。

 

その後も「23番!はい5点減点!」等という教官のどなり声が時折響き渡る中、

様々なメニューを消化しました。

始まりは、教官が無言でカーテンを閉め始めるという素敵イベントからでした。

これからどんな黒ミサが行われるのだろうと震え上がりました。

天井からスクリーンが降りてきて映像が流れ始めました。

映し出されたタイトルは「安全教育ゼミナール~もう一人のあなたへ~」でした。

ドッペルゲンガーかよ、とかいろいろ思いましたが、

もちろん口には出さずに安全運転の姿勢を保ち続けました。

 

まず映像に登場した司会者(?)が

「おやおや~?早くも眠る態勢に入っている人がちらほらいますね?」

等と語りかけてきました。

『一人もいねえよ3番のおかげで』と思いましたが、

これも口には出しませんでした。ハムスターは臆病で、意外と賢い生き物なのです。

内容は、仕事も順風満帆で結婚を間近に控えた会社員が、婚約者、友人達と、

軽井沢っぽい避暑地で楽しく遊んだ帰りに不注意な運転で事故を起こし、

会社はクビ、婚約は解消、莫大な損害賠償金を支払わねばならなくなり、

最後は交通刑務所に入れられて終わる、というものでした。

 

その後また登場した司会者が何やら語りかけてきましたが、

あまりにも本編が衝撃的だったため、内容を全く覚えていませんでした。

司会者は英会話で名前を知っていた小林克也でしたが、

『なんでこれを小林に頼むんだよ』とか『小林は小林で仕事選べよ』とか思いました。

周りを見渡すと、みな死んだ魚のような目をしていました。

 

ちなみにこのDVD、その後立て続けに3回免停になったので、結局短期間で4回見ました。

4回目は内容もセリフもかなり覚えていたので、

映像に合わせてセリフを小声で口ずさんだりしてかなり楽しめました。

今でもかなり内容を覚えています。

他に小林は「割合的には免許保持者の約100人に1人が免停になりますから、

皆さんはある意味100分の1の大変優秀な方だと言えます。」

「100分の1で運が悪かったと考えてはいけません。交通規則が何のためにあるか考えてみましょう。

規則を守らない人はいずれ必ず事故を起こします。

交通違反で捕まって、事故を起こさず済んでよかった、そう考えましょう。」とも言っていました。

 

駐禁で免停になったと言っていた隣の人をちらっと見ると

『駐禁と事故は違うよ』という感じでふてくされていました。

すると小林は

「ま~だぼやいてますね。大体今そこに呑気に座っていられるということは、

運が悪かったのではなく、実は大変幸運だったのですよ!」

と言い始めました。

隣の人がいきなり真っ赤になりました。

頬が、とか、おでこが、とかではなく、顔全体が本当に真っ赤でした。

あれほど鮮やかで劇的な変化を間近で目撃したことはありません。

きっと小林に話しかけられたことが嬉しく、また照れくさかったのでしょう。

しかし彼はその喜びを口にすることなく、それどころか口をきゅっと真一文字に結んで、

奥歯を噛みしめじっとこらえるような表情を浮かべました。

自分にはこの辺りの人間の心の機微はよくわかりません。

ただ、理由はわかりませんがきっと3番のおかげだろうという気はします。

 

次に小林は、こちらを指さしながら、「スピード違反でここにきているあなた!!

はぁー、結構びくっときた人が多いですね」と言い始めました。

「安全教育ゼミナール~もう一人のあなたへ~」の脚本書いた人、

頭をなでてあげたいので連絡を下さい。

 

さらに「自動車は走る凶器なのです!!」と言われた時には、

笑いながら包丁を振り回して、半裸状態で全速力であらぬ方へと走っていく友人を想像して

(塾生は北條先生で想像してください)思わず笑ってしまったため、

「誰だ今笑ったの!」と教官が怒り始めましたが、

結局誰が笑ったかは分からずじまいでした。

 

その後小林は

「いやー困ったもんです違法駐車。おや?急にふてくされた顔をした人がいますね。」

と言い出しましたが、

確かに隣の人はふてくされていたので、これについては何の文句もありませんでした。

「違法駐車のかげから人が急に出てきて、それが事故の原因になりますし、

違法駐車があると渋滞しやすく、緊急車両が通れなくなったりしますから、

違法駐車はスピード違反や飲酒運転と同等、もしくはそれ以上のルール違反なのです!!」

と説明されました。

パーキングメーターがついた路上でコインを入れて合法的に駐車していても

当てはまる話のような気がしましたが、きっと気のせいだと思い込むことにして、

とにかく安全運転の姿勢を保ったままで全てを頬袋にため込むことに専念しました。

 

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